敵とスキな奴。
今日、亮ちゃんが学校を休んだ。
いつも休み時間になったらくすけんのとこか、俺んとこに来るくすけんのとこに来る亮ちゃんが.........今日は休み。
....あ、それって、ちょっとチャンスじゃね?
俺は休み時間になって、くすけんが俺の席に来ることに、亮ちゃんへの優位さを少し覚えた。
「大ちゃんー」
「ん、どした?」
くすけんが俺の机に顎を乗せて、上目遣いで俺を見てくる。
って、本人は自覚ねぇだろうけど。
「亮ちゃん、今日休みだなー」
少し残念そうに、目線を亮ちゃんの席に移すくすけん。
へえ、残念なんだ?
「そうだな、亮ちゃん風邪とか珍しいよな〜」
「うんうん、昨日まではピンピンしてたのに」
ほんと、なんであいつ休んだんだ?
1日たりとも、休まない奴だったのに。
くすけんに会うために、毎日風邪気味の日も来てたのに。
てことは、かなり重症なんだろうな。
ふっ、まあ今日くらいはくすけんから身を引いてもらうわ。
俺は心の中で亮ちゃんにそう言い切って、そっとくすけんの頭に手を乗せた。
「なっ!?、何すんだよー大ちゃん!」
思ったとおり、くすけんはびっくりして目を見開いている。
「ん、別に?俺に触られんの、イヤ?」
「イヤってわけじゃない..けど!なんか大ちゃんその言い方変だよっ」
意地悪そうに不適な笑みを含んで言うと、くすけんは慌てて否定した。
.........可愛い奴。
なんでもくすけんの口からは、素直な言葉が出てくる。
嘘なんて、まがいもない。
俺と違って............
「な、くすけん」
「え?何々っ」
頭をぽんぽんされてるからか、話しかけたからか、くすけんは笑顔で俺を見た。
「くすけんって、俺のことスキ?」
「え、当たり前じゃん!スキじゃねぇと話しかけないって!」
ほらな、やっぱり。
それって友達として....だろ?
俺は違う........俺は.............
「...........わかってねぇの」
呆れながら呟くと、くすけんはわかってないみたいで首を傾げていた。
ほんと、わかってねぇよ.....
「大ちゃんーっ、ほんとどうした?」
.....あ、やべ。
「や、なんでも!......それより、亮ちゃんの見舞いでも行ってきたら?」
つい口から零れ出た言葉。
はっ、俺今なんて........!?
亮ちゃんの見舞い行けって!?
ちょ、それってやばいだろ!?
自分で言ったくせに、すぐ言ったことを後悔した。
「んー、そうだなー....よし、行ってくるかなっ!」
.
「へ、へえ」
バカだ俺。
これじゃ亮ちゃんにチャンスやってんじゃん。
『敵』と『スキな奴』を会わせるなんて....
「くすけん、俺も一緒に.........行く」
語尾が少し遅れた。
でもくすけんはそんなこと気にしないで、『うん』と笑顔で頷いた。
.
.
.
亮ちゃんの家に向かってる途中、俺はスキップしてるくすけんの腕を右手で掴んだ。
その衝撃で転けそうになったくすけんの身体を、左手で支える。
「な、くすけんって俺のことスキなんだよな?」
「うん、スキだよ?」
俺にとっては赤面してしまうぐらいに近い体制にも関わらず、くすけんは平然とした顔で答えた。
------------それなら、、
って、俺は何考えてんだ。
気づくとくすけんと俺の距離がぐっと縮まって、あと数センチでキスできる距離にまで近づいた。
俺が近づけたんだけどな?←
でも、もうあとには引けない。
俺は息を呑んで、くすけんの目をじっと見つめながら言った。
「じゃあ、俺と亮ちゃん....どっちがスキ?」
俺の予想、赤面してあわあわして答えられない。
普段の経験からして、その確率が高い、てかそれ以外考えられない。
だけどくすけんは、俺が思ってもみなかった行動にでる。
赤面なんてもってのほか、さっきの平然さを保ちながら小さく微笑んだ。
「変な大ちゃん、どっちもスキだよ?でも......どっちかって言ったら.......」
その後の言葉に、赤面したのは俺の方だった。
赤面させようとしたくせに、自分が赤面するなんて、情けねぇ。
でも、赤面せずにはいられねぇだろ。
「ははっ、大ちゃん顔真っ赤!」
「なんだよー、悪いか」
いつもはお前が赤面するのに、今日だけは俺の負けだな。
そう思いながら俺は、さっきと同じ距離感を保ったまま、意地悪そうに笑うくすけんの頬を右手で抓った。
.
.
「じゃあなー、俺もう帰るから」
俺は亮ちゃんの家の前で、インターホンを押そうとするくすけんにそう言った。
「え、亮ちゃん家お見舞いに来たんじゃないの?」
「おー、そのつもりだったけどな」
確かに、学校ではお見舞いに行くつもりだった。
だけど学校から亮ちゃんの家までの間に、くすけんが言ってくれた言葉が嬉しかったから。
だから今日はもう、くすけんから身を引いてやる。
俺しか知らない、くすけんの気持ちを知ることができたから。
俺は亮ちゃんの家を見てふっと、少し口角をあげた。
「んー、じゃあ...ばいばい?」
少し残念そうに言うくすけんに、俺は小さく笑って手を振った。
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